第三者割当増資とは
第三者割当増資とは、株主であるか否かを問わず、ある特定の第三者に対して企業が新株を発行して資金調達を行う方法のことを言います。
この資金調達方法は増資にあたりますので、この手段で調達した資金は資本金の増加を伴います。
第三者割当増資は、企業の自己資本を充実させ、財務体質の強化につながります。ただし既存株主にとっては持ち株比率が低下する上、不公平な株価で新株が発行された場合に経済的に不利益を被る可能性があります。
ちなみに、上場企業の場合、新株発行という資金調達の手段としては公募増資の方が一般的です。つまり不特定多数の投資家を公に広く募り、新たな株主となる投資家より資本の払込を受けて資金調達を行う方法です。
しかし未上場企業の場合、株式を公開していないことから公募増資によって資金を調達することは難しく、よって第三者割当増資が活用されています。
第三者割当増資シミュレーション
【例①】経営の主体に変動のない場合
例えば、資本金1,000万円、発行済株式総数200株、株価50,000円の会社が下記のように第三者割当増資で資金調達する場合、新たに株主となる投資家(B)は500万円の投資を行い、100株の株式を取得することになり、(B)の持ち株比率は33.3%となります。
既存株主(A) | 200株 | 株価50,000円 | 資本金1,000万円 |
---|---|---|---|
新たな株主(B) | 100株 | 株価50,000円 | 増資資金500万円 |
合計 | 300株 | 株価50,000円 | 資本金1,500万円 |
【例②】経営の主体が移る場合
下記の例で考えた場合、新たに株主となる投資家(B)は2,000万円の投資を行い、400株の株式を取得することになり、(B)の持ち株比率は66.6%となります。これにより経営の主体は(B)に移ります。
既存株主(A) | 200株 | 株価50,000円 | 資本金1,000万円 |
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新たな株主(B) | 400株 | 株価50,000円 | 増資資金2,000万円 |
合計 | 600株 | 株価50,000円 | 資本金3,000万円 |
例①及び例②では、既存株主と新たな株主とでは、取得する株式の株価は同じ50,000円としています。この株価が適正かどうかを新たに株主となる投資家は見極めなければいけません。
その際に、「この会社の現在の適正な株価はいくらか」を判断する基礎となるのが「株価算定書」というものです。
第三者割当増資を行う際の自己資本により株価を算出する方法【純資産株価】や、将来生み出すであろう利益を現在価値に割り戻して算出する方法【ディスカウンテッドキャッシュフロー】、また同規模の同業他社の株価を比較する方法【類似業種比率】などがあり、会計に知見がある税理士や会計士などのデューデリジェンスによる客観的なデータに基づく資料を参考に、株価を判断します。
【例③】増資資金が既存株主を上回っても、経営の主体が移らない場合
例えば、この企業の業績が良く、利益を積み上げて自己資本が2,000万円(資本金1,000万円+利益1,000万円)であった場合、純資産株価で計算した場合の適正な株価が100,000円という計算になります。よって、新たに株主となる投資家(B)は、2,000万円の増資を引き受けたとしても、取得する株数は200株となり、持ち株比率は50%となります。
既存株主(A) | 200株 | 株価50,000円 | 資本金1,000万円 |
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新たな株主(B) | 200株 | 株価100,000円 | 増資資金2,000万円 |
合計 | 400株 | 株価75,000円 | 資本金3,000万円 |
買収手段としての第三者割当増資
また、第三者割当増資は、株式譲渡と同じく株式を取得する方法ですが、出資比率によりますが役員派遣を伴うM&Aによる買収手段に多く見られます。
買収する側から見ると、M&Aにより株式を取得する手段はオーナー社長から株式を譲り受けるケースが多いのですが、買収される企業の運転資金が不足している場合においては、第三者割当増資により資金を投入すると同時に株式の過半数以上を取得して企業買収を行います。
その際、買収する側から役員を派遣し経営全般を担っていくケースが多く見られますが、既存株主も存在するため共同経営的な意味合いも残ります。
買収される企業としては第三者割当増資により資金調達ができるため、財務基盤が強化され、今後の事業推進において経営的に余裕を持つことができますが、一方でオーナー社長は、自身が保有する株式を売却するわけではないので、創業者利益を享受できません。
一般的に、会社売却にあたって第三者割当増資という手段を使う場合、売却する企業の財務体質は脆弱なケースが多く、よって業績もあまり良くない企業が多いでしょう。そうであれば株式価値も下がっているため、そのタイミングでの既存株主の売却は思惑通りの値段がつかない場合があります。
オーナー社長としては、第三者割当増資により財務体質を強化し、事業を成長させてから保有する株式を売却する方が得策でしょう。